呼びかけ人代表からのアフターコメント


● 竹村 真一
半年ほど前、この“100万人のキャンドルナイト”の最初の企画会議で、言い出しっぺの藤田さん、辻さんに一つだけお願いしたことがあった。

それは「反原発」や”unplugging”といった否定形でなく、あくまでキャンドルの時間を共有する、というポジティブなメッセージを基本にしようではないかということ。
政治的な問題を声高に叫ばなくても大事なポイントは十分伝わるはずだ、いまの世代の感性をもっと信用していい、という思いがその背景にあった。

それに、よき意思でゆるやかに繋がるネットワーク、美しい何かに共感して波紋のようにひろがる動きこそ、本当に強いメッセージを育むものであるはずだ。たとえば、かつての公民権運動における”Black is beautiful”という言葉のように。
辻さんが”Slow is beautiful”と題した本を書かれているということを知るまえの、初対面の会合でのことだった。

その後、この企画への賛同の輪がひろがってゆくにつれ、この思いは確信となっていった。しかし、そんな反応を身近に感じるほどに、そうした全国のさまざまな人々の思いを、もっとリアルなかたちで「可視化」してみたいという思いが募った。

一人一人の自発的な参加が、大きな共感のコミュニティーを生みだしつつある。そうした「つながり」の可視化、全国規模のひろがりを持つこのイベントの「全体像」の可視化、そのなかでの自「分」の存在の可視化――。

そこでキャンドルのサイトに、このイベントへの参加を呼びかける広報機能だけでなく、共感した個々の参加者が互いの存在を確認しうるような「場所」(プラットフォーム)としての機能を持たせたいと思った。
この考えに共感して集まったクリエーターや学生たちのボランタリーなチームワークで生み出されたのが「キャンドルスケープ」である。

まず「つながり」の可視化は、キャンドルリレーというメタファー、具体的にはケータイからの参加登録者にウエルカムメールで「あなたの直前に登録した〜県〜町の方から、あなたに心の灯がリレーされました。その灯はさらに日本のどこかで次に登録される誰かに受け継がれます」と返信する形でデザインされた。(このアイデアを発案したのは我がチーム最年少、渡辺君という慶応大学の1年生だった。)

個々人の居住地域の把握のために入力してもらった郵便番号は、登録者をほぼリアルタイムでウェブ上の日本地図に可視化する仕組み「キャンドルスケープ」のベースともなった。

全国に同じ思いをもった人がどのくらい居るのかという「全体観」と同時に、それが日々増えていくというライブ感覚を味わうことのできる生きた地図。自分の存在が日本列島の新たなロウソクの灯として加わるプロセスを確認することで、より大きな全体のなかの自「分」の存在を感じることもできる、ヴィヴィッドな参加感覚のプラットフォーム。

稀有のセンスと技術をもったウェブクリエーター中村勇吾氏の参加によって、こうした基本コンセプトが、実際にゆらめく灯火のウエーブとして見事に表現された。

全体像の「可視化」という意味では、ほかにもライトダウン時の日本列島を宇宙からの視点で捉えるべく、地球リモートセンシングの専門家に協力を仰ぎ、衛星からの撮影も行った。また東京電力に協力を要請し、消灯前後もあわせた当日の電力使用量の推移を表わしたグラフも掲載した。

人工の光で煌々とかがやく夜の地球の姿は、この星に知的生命が存する徴(しるし)であると同時に、我々の文明の未熟さの証しでもある。本当に高度に発達した文明は、こんな宇宙から見えるほどの無駄な光や熱のエミッションを出さないはずだからだ。

だから、その光を一瞬弱めて自分たちの文明のありようを鏡に映し出すこのイベントは、まだ未熟な知性がその外部に飛びだすために一瞬かがむようなものかもしれない。

そうして人工の夜のきらめきが消える時、この惑星の球面には幾多の星々の光が映りこむだろう。その瞬間を、いつか宇宙から観てみたいものだ。

さて、来年は「キャンドルナイト」をグローバルにネットワークし、時差を利用して東から西へと移っていく“地球大の暗闇のウェーブ”を起こそうという声も上がっている。

しかし、日本からウェーブがリレーされる広大なユーラシア大陸には、はじめから消す光もない広大な闇がひろがっている。

地球大のキャンドルナイトは、こうした新たな可視化と自己認識の鏡ともなり得るはずだ。