「100万人のキャンドルナイト」は、5年目を迎えます。今年は、みなさんに日常の中で自然と季節のうつろひを感じてほしい、そういう想いをこめて「結火」という便りをお届けすることになりました。
キャンドルナイトは、心の灯りのゆるやかなリレーです。古く日本語では、心の灯りのことを「ヒ」と呼んでいたそうです。ろうそくの自然な灯りをともす夜、あなたの心にも灯りをともしませんか。あなたの「ヒ」は誰かの「ヒ」とつながり、地球をあたたかい心の灯りで包むでしょう。
薫風(くんぷう)が吹いた今日、わたしは代々木公園を自転車で走りました。花の香りが風にのって漂い、鳥が鳴く声が聴こえ、青葉が太陽の光の下で輝いて、まぶしさに目を細めました。 花屋さんの前を通ったら、色とりどりの紫陽花が並んでいました。数ある紫陽花の色の中でもわたしはやっぱり、紫色が好きです。
『振り放けて三日月みれば一目見し人の眉引き思ふゆるかも』
これは、大伴家持(718-785)が十代の頃に詠んだ歌です。 「夜空を振り仰げば、三日月が浮かんでいて、それはまるであの美しい人の眉のことを思われる」という意味。当時は三日月のように細く描いた眉が美しい女性の象徴とされていましたから、家持はきっと、三日月のように美しい眉をした女の人のことを想って、この歌を詠んだのでしょう。
花、鳥、風も、月と同じような存在でした。何の花が咲いたらどの種を蒔き、どんな鳥が鳴いたら何の草が生える、といったように、自然の存在を常に肌身で感じていました。何月何日、というのでなく、昼間昇る太陽の位置でだいたいの時間を知り、夜浮かぶ月の形でだいたいの日にちを知って、咲いている花や聴こえてくる鳥の声で、今日は一年の間でだいたいどの頃だということを知ったのです。 この「花鳥風月」の文化は、ずいぶんと昔から存在した「自然暦(しぜんごよみ)」のような存在だと言われています。太陽が昇れば起き、月が夜空を照らせば寝るといったように、日本人の暮らしは本来、自然と共にめぐりめぐっていたものだったんですね。
「100万人のキャンドルナイト」は6/22ー6/24の「夏至」の日に、電気を消して、ろうそくの灯りでスローな時間を過ごしてほしい、そういう気持ちがこめられて始まった環境ムーブメントです。 『でんきを消して、スローな夜を』 わたしたちがこの5年間言ってきたこの言葉にある「スロー」とは、つまり、季節のうつろひを肌身が感じ取り、人々の身体が自然と共に動いていた頃、暮らしの中に流れていた時間のようなことなのかな。そういうふうに、わたしは思います。
「結火」では、夏至の日までの約一ヶ月のあいだ、暦と月のうつろひに添って、小話をお届けします。それは、みなさんがあわただしい日常の中でふと、花に目を向け鳥の声に耳をすまし、夜空の月を振り仰ぐスローな時間が訪れますように。 そして、あなたの心にあたたかい「ヒ」がともり、ある夜きっと、誰かの心の「ヒ」と結ばれますように。そんな想いをこめて、書いて送る便りです。
次回は上弦の月のころにお届けします。
むすび書き:香音(かのん)
今回の暦「小満」について 小満とは万物が次第に成長して一定の大きさに達して来る頃をいいます。小満の色は「藤色」。少し前から藤の季節が始まり、そろそろ紫陽花も咲き出す頃。梅雨もまもなくです。 「結火」では毎回、メールマガジンの配信と連動して配信された日の暦のケータイ用待ち受け画面をお送りします。その季節を代表する写真の上に、その日の旧暦での日付(2007年5月21日は、旧暦では4月5日になります)
そして、その日の月齢(2007年5月21日は、月齢5.5、つまり三日月ですね)が表されています。 ひじりのこよみ: Powered by wacocolo