とはいえ、紅色は本来、花魁に限らず多くの女の人が日常的に取り入れた色でした。着物の袖からほんの少し、紅色をのぞかせれば、闇の中でも美しく冴えわたることや、紅色は身体をあたためる効果があることから、冷えやすい女の人の身体によいとされ、普段着のワンポイントに使われた色でした。
大切なのは、この紅色を表ではなく裏からのぞかせるということ。ほんとうに美しいものは、「表よりも裏から魅せる」ということは日本人の感性の根底にあるものだと思います。手紙にも、直接いえないことは書いて道ばたに落とし、さりげなく伝えた「結び文」が平安の昔にはありました。白黒つかなくあいまいなもの、まわりくどい気持ちの伝え方、それを美とする日本では、紅色は全面に押し出すよりも、さりげなくポイント、ポイントで使った方がよりその美しさを鮮やかに描き出すと捉えられていたのでしょう。