冬至まであと1ヶ月です。冬至のイベント登録も始まり、事務局にも、冬至のキャンドルナイトのイベントを開催しますという連絡を多くいただいています。
先日、「情熱大陸」という番組にキャンドルナイトの呼びかけ人代表の一人である、 辻信一さんが登場しました。辻信一さんは、明治学院大学で文化人類学を教えながら、環境NGOナマケモノ倶楽部では世話人として活躍されています。キャンドルナイト・ムーブメントが始まって5年がたち、キャンドルナイトは節目を迎えました。そこで、辻先生に、キャンドルナイトについてよく尋ねられる質問を中心にインタビューをさせていただきました。まさに、文化人類学ならぬキャンドルナイト学。今回は、その前編をお届けします。
【前編】
Q. キャンドルナイトとスローの接点は何ですか。
「僕たちは、ファストな社会に生きています。いわゆる、“早い者勝ち”の社会。速さをめぐって競い合うと、人間と自然との間の、そして人間同士の繋がりが絶たれ、その結果、環境破壊や、地球温暖化、紛争や戦争が起こってきた。“スロー”というのは、もう一度その失われた繋がりを取り戻せるところまでスローダウンしよう、という意味です。ぼくたちは、自然界との繋がり、人々との繋がりやコミュニケーションなしに生きていけない存在です。またその繋がりこそが歓びであり、生き甲斐ですよね。
そのスローダウンというテーマが、キャンドルナイトには凝縮されているんじゃないかな。ファストな社会の中で、ふと立ち止まってみる、という機会だと思うんです。いつもついているのがあたり前と思っている電気を、ふと消してみる。そしてローソクを点してみる。そうすると、僕たちのこのファストな競争社会の暴力性、あるいは大量生産・大量消費・大量廃棄という物語の中で走り回っている自分の姿のおかしさが見えてくるのではないでしょうか。
そんなことやっても大した省エネにはならないだろうと思うかもしれないけど、大の大人が普段やらないことを子供たちと一緒に大まじめでやるのですから、それだけでもすごいことです。嘘だと思うならやってみてほしい。不思議なことが起こりますよ、きっと。」
Q. スローライフの先には何がありますか。
「スローライフの先には、スローライフしかありません。言いかえれば、人生はゆっくり生きられるべきものなんです。だから、正しくはスローライフじゃなくて、ライフ・イズ・スロー。スローライフって言う特殊な生き方があるわけではない。人生とは本質的にスローなんだ、っていう所にみんなが立ち戻れればいいなあ、と。あわてて先を急ぐ人生を送るのはもったいない。その意味ではスローライフの先に何があるかという問いへの答えは、死です(笑)。まあ、誰もが死ぬようにぼくも死ぬんだけど、その後にも、次の世代がずっとスローライフを楽しんでいってもらいたい。その意味で光がある。ファストライフの先には死があって、その後に残るのもう闇ばかりですよ(笑)。スローライフの先には、当たり前の暮らしがあるのでしょうね。」
Q. キャンドルを使うことは、そのぶん石油製品を使うことにはならないのですか。
「ぜひ蜜蝋のローソクを使って下さい。でも、ほんとに気になるならキャンドルもつけないで、暗闇を愉しんで下さい。」
Q. なぜ冬至と夏至に、キャンドルナイトを呼びかけるのですか。
「国境や文化や社会のちがいを超えてつながれるように、また、自然のリズムを感じられるように、など理由は色々あります。まあ僕としては、自然のリズムを感じられる、というのが大きいと思います。イスラムのラマダン(断食月)のように人間の都合ではなく太陽の運行に従って行動するとか、季節ごと、節目ごとの行事が昔は沢山あったでしょ。自然のペースに寄り添う人間の知恵だったと思う。そういう行事を通じて、あらためて、人間の小ささや自然との繋がりを思い出す。キャンドルナイトは、そんな節目を祝う現代のお祭りの様なものになればいいな、と思います。」
Q. 環境=文化運動とはどんな運動ですか。
「環境運動というのは、文化運動だとぼくは思っています。環境破壊というのは、文化の貧しさの証拠なんですから。自分で自分の首をしめたり、自分の子供たちやその子供たちが生きていけないような状態をつくるなんて、もう文化としては失格ですね。そんな文化を見直そうよ、ほんとに僕たちが創りたい文化はどういうものなの、という問いかけから始まったのが、文化の作り直し運動としてのスロームーブメントです。
どんな文化も、元来の定義としては、エコロジカルなんです。エコロジカルでない文化は長持ちしません。でも、世の中を見ていると、技術が引き起こした問題を技術で補おうとか、新しい技術が出てくれば解決すると思っている人たちが多い。CO2を地下に埋め込む技術を開発しようとか、石油がだめなら、原子力だとか、CO2より放射能のほうが安全みたいないいかたをしているでしょ。科学が問題を引き起こしてきたのに、その問題を同じ科学で解決できるかのように振舞っているけど、僕はそんなの幻想だと思っている。
ある問題を引き起こしたのと同じ、態度や考え方で、その問題を解決することはできない、とアインシュタインは言いました。彼の言葉でいうと、態度や考え方というのは“マインドセット”。マインドセットとは、言い換えれば文化です。僕たちの価値観、思想、心の習慣、態度、美意識を、大転換しなくちゃいけない。そういう意味でも、キャンドルナイトはいい入り口になると思います。」
【後編】に続く